ザトウクジラ: 海の番人

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ザトウクジラー海の番人ー

ハワイ滞在中にザトウクジラを見ることができる場所をご紹介します。

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上: 移動のピークにあたる時期には、ハワイではザトウクジラの姿がよく目撃されます。

ザトウクジラの体重は40トンあり、超大型のダンプトラックに匹敵します。胸びれはそれそれが4.6mにも成長し、大人のザトウクジラであれば全長のおよそ3分の1の長さに相当します。また、ザトウクジラの学名「メガプテラ」は「大きな翼」という意味で、これは巨大な胸びれに由来しています。

北太平洋で見られるザトウクジラは、毎年アラスカ州南東部から6~8週間におよぶ4,800kmの旅を経てハワイへ到着します。2019年は、10月1日にカウアイ島のノースショアにあるケエビーチ沖でシーズン初のザトウクジラが目撃されたと報告されました。


 

海岸からのホエールウォッチングにおすすめのスポット

オアフ島:
マカプウ灯台
ダイアモンドヘッド頂上展望台

マウイ島:
パパワイポイント
プウオライ
Sanctuary Education Center

カウアイ島:
キラウエアポイント国立野生生物保護区
Kapaa Overlook
ナパリ・コーストのカララウ・トレイル

ハワイ島:
ラパカヒ州立歴史公園
カパアビーチパーク
プウコホラ・ヘイアウ国立歴史公園

米国海洋大気庁 (NOAA) のハワイ諸島
ザトウクジラ国立海洋保護区でリサーチ
コーディネーターを務めるマーク・ラマ
ーズは、この報告に驚きませんでした。
10月初旬にハワイへ到着したことは決し
て珍しくありません。ザトウクジラは冬
の間にハワイで繁殖や出産、子育てを
行い、その後はアラスカ湾や北太平洋の
その他の場所に移動して、夏の間に主に
えさを獲って栄養を蓄えます。繁殖
シーズン中、ザトウクジラはそれぞれに
やって来ては、また去っていきますが、
一般的にその数がもっとも多くなるのは
1月、2月、3月です。
晴れて風のない日には、クジラが息を吐き出す「ブロー(潮吹き)」が6mもの高さにまで上るのを、何キロも離れた場所から見ることができます。
ザトウクジラが海面を突き破ってその巨体を宙に躍らせることを「ブリーチング」と呼びますが、ジャンプ後に意気揚々と海に戻るときには、まるで戦闘機のような衝撃音が海面に轟きます。ハワイで最初に目撃されたクジラは、近くでツアーボートに乗っていた幸運な観光客に何度も「ブリーチング」を披露して、大きな歓声で迎えられました。

ザトウクジラの体は巨大ですが、実際のところその生態には多くの謎が残っています。大人のザトウクジラは最大45分間も息を止められるため、数百メートルも深く潜ることができます。研究者にとってザトウクジラの調査が非常に難しいのはそのためです。しかし、技術の進化により、クジラの生態を明らかにする洞察が可能となり、この海の哺乳類をより深く理解できるようになってきました。最近の報告で、えさ場から子育ての場であるハワイへ移動するクジラの数が減っただけでなく、クジラが痩せてきた可能性があることがわかっています。クジラの生態解明に役立つ先進技術を活用することができるようになったのです。

海面に浮かび上がるクジラ

上: この優しく巨大な生き物は鑑賞に値するスペクタクルです。

ザトウクジラが他のクジラと異なるのは、短い音の組み合わせからなる歌を歌うことで、ザトウクジラよりも複雑な歌を歌うのは人間だけだと言われています。「ザトウクジラの歌はとても幻想的です」と、ラマーズ氏は『Changing Seas』というシリーズ番組のエピソードの中で話しています。現在オンラインで試聴可能です (https://www.changingseas.tv)。

ラマーズや他の研究者たちは、何十年もの間、水中音響録音装置を用いてザトウクジラの歌を研究してきました。これまでに分かっていることは、歌うのは雄だけで、それも繁殖シーズンの間に限られるということです。さらに、ザトウクジラの歌は繁殖シーズンを通して変化するということも分かっています。そして、次の繁殖シーズンには、昨年の終わりに歌った歌で始まり、そのシーズンを通してまた変化し続けます。ラマーズ氏と他の研究者たちは、雄のクジラの健康状態やヒエラルキーに関連する説を検証しています。

2019年の秋の初めに、イギリスのザトウクジラの研究者たちは、クジラの歌の「テーマ(繰り返されるフレーズのパターン)」は場所によって独自性があると提唱する科学的研究を発表しました。つまり、これによって研究者は、一頭のクジラの往来をその歌に基づいて特定できるというのです。

クジラの情報案内板

上: マカプウ灯台のトレイルはオアフ島で理想的なホエールウォッチングスポット

ザトウクジラについてもっと知りたい方はこちらへ

マウイ島:
Sanctuary Visitor and Education Center
726 South Kihei Road
Kihei, Hawaii 96753
電話: (808) 879-2818 またはフリーダイヤル
1-800-831-4888

Lahaina Heritage Museum
648 Wharf Street
Lahaina, Hawaii
(808) 661-3262

カウアイ島:
New ocean discovery facility
(ククイ・グローブ・センター内)
3-2600 Kaumualii Hwy., Suite 1618
Lihue, Hawaii 96766
(808) 246-2860

科学者たちは長い間、ザトウクジラが
海面に姿を見せる行動を基に、その分類
を行ってきました。ザトウクジラは長い
胸びれを打ち付けたり、ブリーチングし
たり、尾びれを高く持ち上げて海面に
たたきつける「ペダンクルスロー」と
呼ばれる激しい動きをしたりして、
盛大なしぶきをあげます。ペダンクル
スローを行うとき、クジラは尾びれの
上にある尾柄部(びへいぶ)の筋肉を
使って尾びれを横に投げ出します。
派手なしぶきのおかげで、科学者たち
は広い海原で研究対象のザトウクジラ
を見つけることできるのです。
写真を用いることで、科学者たちは
ザトウクジラのフルーク(尾びれ)の
裏側にできる特有の色素沈着パターン
を基に、7,000頭もの個体を分類してきました。

しかし歌を歌うことのほかには、海面下のザトウクジラの行動についてわかっていることはほとんどありません。
雄はどのくらいの頻度で歌うのか、ザトウクジラはどのくらいの時間休むのか、夜は何をして過ごすのか、船舶が通過するときのような大きな音にどのように反応するのか。このような疑問の解決に役立つのが、「センサータグ」という高価なハイテク機器です。吸盤を使ってセンサータグをクジラに取り付けます。このタグは何時間もクジラに付いたままで、音や潜水行動、三次元の動きを計測し、クジラの体から外れると、海面に浮かんでVHF信号を発します。研究者たちはこの信号を手掛かりにセンサータグを探して海から回収し、蓄積されたデータを分析します。

1985年に捕鯨モラトリアムという国際的な捕鯨中止措置がとられるまで、世界中のザトウクジラは絶滅の危機に瀕していました。商業捕鯨以前には15,000頭も生息していた北太平洋のザトウクジラの数は、10%未満に減ってしまっていたと考えられています。2006年には、ハワイに移動した北太平洋のザトウクジラの数は推定で10,103頭(子供のクジラを除く)ということが頭数調査によってわかりました。その数は毎年増え続け、この研究に基づき、2016年にザトウクジラは絶滅危惧種のリストから外されました。しかし、その後すぐにまた変化が起きました。

クジラの尾

上: クジラの尾を間近に見られることが、ホエールウォッチングツアーの醍醐味

同年、繁殖シーズンのためにハワイへ移動してくるクジラの数が数年ぶりに減っているという報告がハワイのあちこちからもたらされました。その一方で、アラスカではやせ細ったクジラが観測され、同時にアラスカで「冬を越す」ザトウクジラの数が増加していました。さらに、ザトウクジラはいつものえさ場から姿を消し、いつもとは違う場所に現れたのです。

2018年にザトウクジラの研究者たちが一堂に会し、この突然のクジラの頭数増加および健康状態の変化について議論した際、多くの説が持ち上がりました。ザトウクジラは移動ルートを変えているのではないか。ザトウクジラは豊富なえさを求めて別の場所を探しているのではないか。海の温暖化でえさが減っているのではないか。ザトウクジラの数が増えすぎて、種を維持する環境能力が限界に達してしまったため、どこかに移動したのではないか。こうした数々の仮説が研究者を新たな研究へと向かわせました。

ハワイでは、研究者たちはこれまでマウイヌイ周辺(マウイ島、モロカイ島、ラナイ島、カホオラウェ島)の水域に注目してきましたが、2018~2019年の繁殖シーズンから、オアフ島とカウアイ島沖の海洋保護区に、またパパハナウモクアケア海洋ナショナル・モニュメントの2か所に生態音響記録装置 (EARs) を設置しました。パパハナウモクアケア海洋ナショナル・モニュメントとは、ハワイ諸島の主要な島々の北西に連なる諸島および環礁全域です。

海面下のクジラ

上: ザトウクジラが海の中を滑るようにゆったりと泳いでいきます。

このEARs機器は海底の岩などに固定する定点装置です。定期的に回収して内部の記憶装置からデータをダウンロードし、電池を新しいものに交換して海底にまた取り付けます。

さらにロボット装置の導入も始まり、従来ならザトウクジラが集うことのない場所での調査に用いられています。「ウェーブグライダー (Wave Glider)」と呼ばれるこの自律走航型装置は、サーフボードサイズの海面プラットフォームとそれにつながれた海面下の「サブ」で構成されています。海面フロートには、制御ユニット、ソーラーパネル、カメラ、通信システムが搭載されており、「サブ」は波を乗り越える際に生じる上下動の力を前方推進力に変換させることで、この装置全体を推進させます。さらに、衛星技術を利用して海面および海面下で撮影された写真と短い録音をダウンロードすることも可能です。

「ザトウクジラは本来ならこの場所で発見されることはないのですが」と、ホエール・トラストの生物学者ジム・ダーリング博士は、ハワイーメキシコ間を往復するウェーブグライダーの100日間の調査に関する発表の中で述べています。ザトウクジラは、メキシコやハワイの沖から近く、比較的浅い、特定の繁殖地に集まることが一般的に知られていますが、ウェーブグライダーは、ザトウクジラが集まることが知られる沖から近い場所それぞれの中間地点に位置する、広い海の真ん中でザトウクジラの声を拾っていました。「そうは言っても、遠く離れた、こうした沖合いのエリアを調査した人がこれまでいなかっただけなのでしょう」

クジラを見る人たち

上: ザトウクジラの小さな群れが雄大な動きで通り過ぎるのを陸から観察する人たち

著者 Kim Rogers